東日本大震災
Loading

震災から5年 陸上自衛隊最高指揮官の視線(1)

東日本大震災から5年 特別インタビュー企画

 東日本大震災では、その迅速かつ誠実勤勉な自衛隊の災害派遣業務が大きくクローズアップされた。被災地で泥水に浸かりながら自衛官が人命救助をする映像を見た人も多いだろう。そして多くの国民が固唾を飲んで見守った福島第一原発へのヘリからの放水作業。あの史上最大の災害派遣活動を指揮した陸上自衛隊の最高指揮官は、震災から5年の歳月をどう見ているのか?

プロフィール

火箱芳文(ひばこ よしふみ)

 

1951年生まれ。防衛大学校18期卒。

 

東日本大震災当時、陸上自衛隊制服組の最高位である陸上幕僚長の職にあり、自衛隊史上最大規模の災害派遣を指揮した。

 

発災直後、指揮系統を逸脱して陸幕長自身が全国の陸上自衛隊に直接、現地急行の号令をかけたことが、稀に見る迅速な救助・捜索活動につながった。

 

2011年8月退官。

 

現三菱重工業顧問。

 

著書:

即動必遂 東日本大震災陸上幕僚長の全記録」(マネジメント社)

国の行政レベルでの変化

Q.東日本大震災から5年。大規模災害への備えという意味で前進したこと、していないことは?

 

 国の行政レベルで見ると、あの当時、被災地で「現場力」を持って機能した中央官庁は国土交通省だけで、経済産業省など他の官庁は被災地での手足というか現場力の面では厳しいものがありました。

 

これについては5年経った今でもあまり変わっていないのかなという印象です。

 

 一方この5年で改善された点は、防災基本計画で定められた緊急対策本部マニュアルの中で各省庁の役割分担が明確になったことだと思います。

 

 例えば東日本大震災の時は、当初 被災地への物資輸送が滞っていたので、自衛隊が民間支援物資輸送スキームを作るなど物資輸送の大きな部分を担っていましたが、今後は国土交通省が災害時の輸送の中心となってさまざまな手配・調整をしていくことになりました。

 

 自衛隊はその輸送力の一部を担うことはあっても、中心となって行動することはなくなると思います。

 

 このように大規模災害の際に各省庁の果たすべき責務の範囲が明確化されたのは大きな前進だと思います。

 

 ただ、自衛隊や国土交通省以外の各省庁の「現場力」というのはイコール「民間力」ということになりますから、そうした民間企業などと日頃から協定などを結んでおくようにしなければ、いざという時に機能しなくなることを懸念しています。

陸上総隊司令官

Q.東日本大震災の時、火箱氏は「越権行為」と批判される可能性があるにも関わらず、全国の陸上自衛隊に自身が直接指示を出したことが迅速な人命救助につながったと言われているが、この点については?

 

 海上自衛隊には「自衛艦隊司令官」、航空自衛隊には「航空総隊司令官」という全軍に指揮権を持つ役職があるのですが、陸上自衛隊は全国5つの方面隊を指揮する方面総監がいるのみで、全軍に指示を出す「陸上総隊司令官」のような役職はありませんでした。

 

 指揮系統という意味では、陸幕長は軍事アドバイザーのような立場に過ぎないわけです。

 

 しかし地震が起きたのは冬の午後3時前、日没が近く一刻の猶予もならない。

 

 通常の手続きを踏んだら被災地に大規模部隊が入るのは翌日になってしまうという判断から、総隊司令官のいない陸上自衛隊にあっては陸幕長という立場を超え、「クビ」も覚悟で指示を出したわけですが、この編成上の問題については大きな前進がありました。

 

 その後、私の「越権行為疑惑?」について調査もされたようですが、最終的にはこの経験から、陸上自衛隊全体に指揮できる役職が必要ということになり、2017年度に「陸上総隊司令官(司令部)」が発足する予定です。

師団から旅団へ 持続力への懸念

Q.その他、陸上自衛隊の編成に関する懸念点は?

 

 これまでずっと陸上自衛隊の定員・実員削減の流れの中で、「師団(定員6,000〜9,000人)の旅団化(定員3,000〜4,000人)」が進められてきたのですが、東日本大震災の現場では、これが大失敗だったと痛感しました。

 

 師団も旅団もいわゆる「作戦基本部隊」ですから、災害派遣の際にも基本的にはこれが1単位となって行動するわけです。

 

 そうなると旅団の方が圧倒的にマンパワーが足りず、師団に比べて被災地での隊員の疲労度が極めて高かった。

 

 さらに最近は「南西防衛」の比重が高まっているので、本州の中部・東部・東北の各方面隊から少しづつ人員が減らされ南西防衛に回されています。

 

 東日本大震災の場合でも、現場の作業は過酷であり、かつ291日間という長丁場の戦いになったわけで、この「師団の旅団化」と「南西防衛のための人員シフト」から、首都直下地震や東海地震など本州の中央部で大規模災害が発生した場合、災害派遣部隊の「持続力」が懸念されます。

 

 肉体的にはもちろんですが、とりわけ精神的ダメージが心配。

 

 悲惨な災害現場での作業は、救助・捜索する側の自衛隊員にもPTSD(心的外傷)を残します。

 

 さまざまなメンタルヘルスのケアをするのですが、極めて解決が困難な問題で、東日本大震災では連隊長クラスの幹部からも自死者を出しています。

 

    (後編へつづく)

 

 

※火箱芳文陸幕長(当時)の活動の詳細については、【特集】『事に臨んで 陸自史上最大の作戦』をごらんください。

 あなたにオススメの記事