歴史

防災歳時記5月27日 ジャワ島中部地震と世界遺産

 7年前、2006年の今日5月27日。インドネシアのジャワ島中部でM6.3の地震が発生した。この地震は独特で、南北数10キロの活断層のまず南端でM6.2の地震が発生し、直後に北端でM6.1の地震が起きた。

 

 この2つの地震の揺れが相互に干渉し合い大きくなったこともあり、M6クラスの地震にも関わらず、約3000人以上が死亡し、2万人以上が負傷するという大災害に発展した。

 

 しかし、この地震で唯一幸運だったことがある。それは震源地近くにある仏教の聖地 世界遺産の「ボロブドゥール遺跡」がほとんど無傷だったこと。

 

 総面積約1.5万平方メートル。8世紀に作られたこの遺跡は、仏教の世界観である『三界(欲界、色界、無色界)』(「女は三界(さんがい)に家なし」と昔は言われたアレだ)を表現する9層のピラミッド構造になっており、それは密教の影響を色濃く残す、まさしく『立体曼荼羅』と言える。

 

 ボロブドゥール遺跡は、19世紀まで人々の記憶から忘れ去られ密林の奥深く埋もれていた。

 

 近くにある活火山ムラピ山の降灰によるものであるとか、イスラム教徒による破壊を恐れて意図的に埋めたとか諸説あるが、とにかくインドネシアが独立した1960年代には遺跡は傷みがひどく、崩壊寸前の状態にあった。

 

 1973年からユネスコの主導により、10年の歳月をかけて修復事業が行なわれた。日本も資金協力をしている。

 

 そして現代のボロブドゥール遺跡は、年間観光客数100万人とも言われるインドネシアを代表する観光地になった。

 

 ちなみに仏教→ヒンドゥー教→イスラム教と宗教が変遷していったインドネシアでは、現在仏教徒は全人口の0.4%に過ぎない。

 

 だから現在のボロブドゥール遺跡は株式会社組織が管理しており、「より観光地として楽しめる世界遺産?」に向かう方向性を「遊園地化」と批判するむきもある。しかし一方で国民統合を象徴する文化遺産として大切にされているのもまた事実だ。

 

 歴史的に「仏教→ヒンドゥー教→イスラム教と変遷した」と述べたが、インドネシアの場合それは「入れ替わり」なのではなく「文化的な累積」なのだと指摘するむきもある。

 

 確かに現在のインドネシアのカレンダーを見ると、イスラム教の祝日もあれば、キリスト教の祝日も、そして中国系の人のための中国暦新年の休日もある。

 

 イスラム過激派による遺跡破壊事件などもあったものの、そこには多様性を許すインドネシアのアジア的寛容さを感じる。

 

 侵略と破壊を繰り返したエルサレムの歴史や、イスラム過激派による世界的なテロ事件に思いをいたす時、ボロブドゥール遺跡の立体曼荼羅が象徴する多様な世界観に「新しい世界秩序の可能性を感じる」と言うのは、少しばかり言い過ぎか。

 

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