歴史

防災歳時記5月29日 神の知恵と東海村放射能漏れ事故

 84年前、1929年の今日5月29日に、イギリス北東部の工業都市ニューカッスルで一人の男の子が生まれた。名前はピーター・ウェア・ヒッグス。彼は長じて理論物理学者になり、35歳の時に、「質量の起源」を説明する理論を発表した。

 

 りんごが木から落ちるのは、万有引力があるから。それでは引力(重力)はどうして発生するのか?

 

 それは「ヒッグス機構」と呼ばれる仮説だった。この仮説が正しいか否かを証明する方法は、この仮説で存在が予測されている「ヒッグス粒子」なる素粒子を見つけること。

 

 しかし、それを見つけるためには、巨大な実験設備が必要だった。スイス・ジュネーブ郊外にある欧州原子核研究機構(CERN)の地下に全周27キロの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)が建設された。

 

 このLHCを使っても、理論上 ヒッグス粒子が生成される確率は10兆回に1回。ヒッグスが仮説を提唱してから50年近く経った2013年3月、CERNは新しく発見された粒子がヒッグス粒子である可能性を強く示唆していると発表した。

 今回、放射性物質漏えい事故により、研究者ら33人が内部被ばくした茨城県東海村のJ-PARC(ジェイ・パーク)も、同じような大強度陽子加速器施設だ。

 

 以前の「防災歳時記」で、「核技術は現代の錬金術」と述べたが、核技術が現代の錬金術なら、高エネルギー物理学や素粒子物理学は、万物の創造主たる神の知恵に迫る研究と言える。

 

 「この世界は何なのか?」、「宇宙はどうやって生まれたのか?」

 

 かつては「哲学」が扱った疑問は、今や「素粒子物理学」の研究領域となっている。実際、J-PARCの共同運営主体である高エネルギー加速器研究機構(KEK)のホームページを見れば、J-PARC加速器の目的・ビジョンとして「宇宙創成の謎に迫る多様な実験を行う実験施設」と明記されている。

 

 万物の創造主たる神が人間にとって慈悲深き存在であるとともに「荒ぶる神」の一面を持つのと同様に、「神の領域」にまで近づきつつある学問は、いったん豹変すれば、その恐ろしい牙を人類に向けるのかも知れない。

 

 「宇宙の起源を知って何になるのか?」

 

 毎年巨額の研究予算を使う素粒子物理学の研究に批判はあるが、現在のインターネットの基礎をなすHTLMはCERNでの研究論文を検索するための技術として生まれた。加速器のためのKEKの超伝導に関する研究は産業分野に恩恵をもたらす可能性が高い。

 

 今回の事件でこそ批判を浴びているが、実はフジテレビの高視聴率月9ドラマ「ガリレオ」の第1話には、茨城県つくば市にあるKEKの「Belle Ⅱ測定器」が登場していたのをご存知だろうか?

 

 それは現代において、高エネルギー物理学や素粒子物理学がそれほどまでに「知の最前線」であるとのイメージが人々に定着している証しなのか。

 

 仮に将来「原子力発電」がすたれるようなことがあったとしても、素粒子物理学の研究が絶えることはないだろう。

 

「この世界の意味は何なのか?」

 

それは人間の知性と好奇心にとって、最も根源的な「問い」のひとつだから。

 

 

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