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  • 防災知識

真に学ぶべき教訓は実体験にある

 想定外の巨大地震。一通りの防災知識は身につけたつもりでも、体験なき者にはリアルにその状況を想像することすら難しい。

『本当の教訓』は、たいてい教科書には載っていない。我々が知っている知識は、その時どれだけ役に立つものなのか?

 

 この連載では、ベストセラー『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』、『ふたたび、ここから』を執筆したジャーナリスト池上正樹とフォトジャーナリスト加藤順子が、実際に被災地を取材する中で感じた、さまざまな「被災地のリアル」を伝える。

そこから「被災するという事」をリアルに感じ、その日のために大切な教訓を学びとってほしい。

 

第11回 防災無線のリアル

 今をさかのぼること10数年前。初めて独立して仲間と小さな会社を設立した。それは荒波に漕ぎ出した小舟のようだった。そのとき一緒に始めた仲間が言った。

 

「どんなことがあってもオレは絶対お前を裏切らないから。」

 

 その言葉にどんなに勇気づけられたか…。しかし時が経ってみると、「絶対裏切らない」と言った奴から順に裏切って、会社を離れて大企業に再就職したりした。

 

 世の中「絶対だいじょうぶ」というものほど信頼がおけないものはない。「私は絶対ウソをつきません」という奴が、間違いなく『ウソつき』なのと同じ道理だ。

 

 枕草子風に言えば、「ちかごろ都でとかく信じられぬもの」

 

  ◇原子力発電所の安全神話

 

  ◇国民年金の20年後も大丈夫といいつるもの

 

  ◇食べる順番を変えるだけでやせるという最近はやりのダイエット

 

  ◇ブランド店の紙袋を山のようにかかえて帰ってきた妻の「ちゃんと家計簿はつけてるから…」

 

 

 そして今回、「イザと言う時にこれだけは…」というものがあてにならないことを新たに知った。

 

 

 

「デジタル防災行政無線」が鳴らなかった

 万一のときには、危険を知らせてくれる防災無線やサイレンを頼りにしている人も多いに違いない。

 

ところが、何も鳴らないからと安心して避難しないでいると、自然災害に巻き込まれて逃げ遅れる可能性もある。

 

 東日本大震災で壊滅的な被害を受けた宮城県名取市閖上地区は、当時、在宅していた人口の約5分の1にあたる800人近くが、津波の犠牲になった。

 

その大きな要因の1つは当日、市の全域で、大津波警報の発表や避難を呼びかける「デジタル防災行政無線」が鳴らなかったことだ。

防災無線が鳴っていれば、妻は自宅に行かなくて済んだのに…

 2年前のあの日、内陸部で仕事していたAさんは、妻と母親を亡くした。

 

他の街で働いていたAさんの妻は、閖上の自宅にいる母親を迎えに行く途中、津波にのまれ、仙台東部有料道路の土手の堀で見つかった。

 

母親も自宅から避難することのないまま亡くなったという。

妻の爪を見ると、仙台東部有料道路の堤防を必死に登ろうとしたのか、土がめり込んでいた。

 

「防災無線が鳴っていれば、妻は自宅に行かなくて済んだのに…」

 

 そうAさんは悔しがる。

 

 防災無線が稼働しなかった原因について、設置業者から不具合報告書の提出を受けた同市は、翌年5月の『広報なとり』誌上で、

 

<何らかの原因で装置内部に混入した金属物が、地震の振動により、電源ユニットまで落下し、ショートしたため、ヒューズが飛んだことが原因と思われる>

 

と説明。機能しなかったことについて、市は「大変遺憾である」との見解を示した。

構造計算が甘かったということです

 それだけではない。昨年12月7日に発生した三陸沖のマグニチュード7.3の余震のときも、震度4を記録した同市の沿岸に津波警報が出された。

 

しかし、今度は、3.11後に沿岸部に設置された「モーターサイレン」が鳴らなかった。

 

 市の防災担当者は、こう原因を説明する。

 

「構造計算が甘かったということです。

 

市としては、サイレンを設置する業者さんに“震度7の地震や風速50メートルの台風でも大丈夫なように”と繰り返し説明し、業者さんも“大丈夫です”と約束して施工したんです。

 

ところが、実際には、震度4の揺れで、ずれるはずのないアンテナがずれてしまった。

 

それが原因で通信することができず、サイレンが鳴らなかったのです」

 

 結局、モーターサイレンは、職員がすぐに役所から飛び出して、手動で動かした。

 

後日、メーカー側は市役所を訪れて、市長に謝罪。2月末には「我々の責任で万全の対策を講じました」との報告を受けたという。

 

 今後、詳しい原因などについては、市に設置される第三者検証委員会によって検証される予定だ。

自分のカンを信じて避難する心がけ

 しかし、これは名取市だけの問題ではない。いざというとき、大津波警報発表や避難を知らせる防災行政無線やサイレンは、どこの自治体でも鳴らない可能性がある。

 

 何しろ、震度7の揺れでも大丈夫なはずのアンテナが、昨年末の震度4の揺れでもずれて、警報のサイレンが鳴らなかったのである。どんなに「大丈夫」「万全だ」と言われていても、「構造計算が甘くなっている」かもしれないし、「偶発的な事態が重なる」かもしれない。

 

 いざというときは、行政の防災無線を当てにせず、自分のカンを信じて避難するように心がけよう。

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