• 歴史

東日本大震災が起きてから、日本の歴史が震災という新たな角度で注目されるようになった。

 

M8.0クラスの大震災
富士山の噴火
大飢饉を招いた気候の寒冷化
など

 

かつては「大げさ」の一言で片付けられがちだった古文書の内容が、現実を目の当たりにして笑い事では済まされなくなったからだ。


歴史の記録には、我々の祖先が体験してきた貴重な記憶が詰まっている。

当連載では、それをやさしく紐解くことで、災害の今昔を学んでいきたい。

第三十巻 平安時代の大変動期は現代に再発するのか?

 東日本大震災から2年半が経過した。

 

 震源地からほど近い宮城県沖や福島県沖では、今も毎日のように地震が発生しており、余談の許さぬ状況が続いている。

 

 いったい日本の地下では何が起きているのか?

 

 現在、我が国では、地震研究や予測への科学的アプローチが進められる一方、過去に起きた「歴史地震」から長期的な傾向を学ぶという取り組みも進められている。

 

 たとえば東日本大震災と同規模だったと目されている貞観地震(推定M8.5)は869年に発生し、その前後では数多の大地震が発生した。

 いわゆる「大変動期」と呼ばれ、地震活動が活発になったのである。

 

 もしかしたら現代の日本も、東日本大震災をキッカケに平安時代と同じような「大変動期」を迎えてしまったのではなかろうか・・・?

 

 そこで本稿では、貞観地震と東日本大震災の前後を比較することで、次なる震災への備えとしておきたい。

 

貞観地震の前後で大地震が8度も発生

 869年に貞観地震が起きた前後、日本ではどんな大地震が発生していたか。
 まずは年表で確認してみたい。

 


850年 山形、秋田で地震津波。山形にあった出羽国府が津波(もしくは川の決壊)で被害
863年 新潟で地震。圧死者が多数
868年 兵庫で地震。官舎や寺がことごとく倒壊との記録
869年 東北を襲った貞観地震(陸奥海溝地震)
869年 奈良で断層が露出する地震

869年 熊本県で地震津波(もしくは川の決壊)
878年 神奈川、東京、埼玉を中心とする南関東地震。官舎も民間も建物で一つとして無事なものはない。
880年 島根で地震。神社仏閣に損害多数
887年 南海トラフ地震。大阪湾に津波が襲来する

 

 

 869年の前後に8度、大きな地震を記録している。

 つまり、貞観地震を含めて、9度の大地震が史書に残されているわけだが、この地震群を大変動期の1つのパッケージだったと仮定して、現代にあてはめるとどうなるか?

 

 まず850年の出羽の地震は1983年に発生した日本海中部地震と震源域が近く、現代でも津波で約100人の犠牲者が出ている。

 863年の新潟の地震は、2004年新潟中越地震と2007年新潟中越沖地震に合致。

 868年の兵庫の地震は1995年の阪神淡路大震災、880年の島根の地震は2000年の鳥取県西部地震(M7.3の直下型地震)とそれぞれ呼応している可能性が考えられる。

 

 さすがに順番までは一致していないが、問題は、貞観地震の前後に記録されていて、現代では未だ発生していない地震だ。

 

 869年の奈良と熊本、878年の南関東、887年の南海トラフ。

 

 もし現代が貞観地震のときと似たような大変動期に突入しているならば、上記の4地震については、いずれも懸念されるところであるが、今回特に注目したいのは南関東の地震である。

 

仏像が倒れ七重の塔が炎上した

 878年の南関東地震については、国史「日本三代実録」にそのときの様子が掲載されているので一部を抜粋してみよう。

 

『夜に京都でも地震が起きたが、この日の関東諸国の大地は激しく揺れていた(原文は「震裂」)。
 相模(神奈川)、武蔵(神奈川、東京、埼玉)は最も激しい被害があった。
 5~6日間、余震が止まらないでいる。官舎も民間も建物で一つとして無事なものはない。
 さらに地面が各地で陥没していて、交通路が遮断されてしまった。圧死した被害者はとても数えられるものではない』

 

 他にも、神奈川県海老名市にあった相模国の国分寺では、本尊などの仏像が倒れ、地震後には火災が発生。主要な建物(講堂)の基盤にはヒビが入り、推定65メートルという七重の塔も炎上している。

 震源は神奈川県の中心を南北に走る伊勢原断層で、地震の規模は推定M7.4であった。


 地震調査研究推進本部によると、この伊勢原断層が今後30年以内に動く可能性は「0%~0.003%」と非常に低く設定されている。
 断層の動く間隔が4000~5000年とされ、直近では1703年の元禄地震も伊勢原断層による揺れだったため、次の地震は当分先だろうと考えられているからだ。

 

 ただし、歴史地震学者の石橋克彦神戸大名誉教授はかねてから、この断層は単独の活断層ではなく、相模トラフから沈みこむフィリピン海プレートに関連すると指摘。
 もしその指摘が正しいとすれば、プレート型地震だった東日本大震災が、隣接するフィリピン海プレートに与えた影響は避けられず、現状では軽視できない状況となっている。

 

 平安時代に南関東で地震が発生したのは878年。貞観地震の869年から9年後のことだった。

 2011年東日本大震災の9年後は、東京オリンピック開催の2020年となる。

 

 五輪の競技会場や選手村の多くは、江戸時代以降の埋め立て地に立地しているため、もし大きな揺れに襲われれば液状化などで大きな被害も・・・。

 

 むろん、いたずらに危機感を煽る気はないが、我々の暮らす日本が、平安時代のような大変動期へ突入した可能性があることは覚えておいて損はないだろう。

 

文・恵美嘉樹(えみよしき)
作家。歴史研究の最前線の成果を社会に還元する二人組。
著書に『全国「一の宮」徹底ガイド』(PHP文庫)、『最新日本古代史の謎』(学研)など。

 

参考文献
石橋克彦『大地動乱の時代』(岩波新書)
保立道久『歴史のなかの大地動乱』(岩波新書)
岡本公樹『東北 不屈の歴史をひもとく』(講談社)

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