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陸自史上最大の作戦 東日本大震災

陸上自衛隊 現在の実員数 約14万人。
創設から58年の歴史の中で史上最大の作戦は、言うまでもなく「東日本大震災への災害派遣」だ。
のべ派遣人員1066万人、派遣期間291日間、犠牲になった隊員は5名。
福島第一原発上空で放水する陸上自衛隊のヘリコプターのテレビ映像に釘付けになった人も多いだろう。
メディアで刻一刻と状況が報じられる裏側で、陸上自衛隊に何が起き、どのように作戦を遂行していったのか?
当時の陸上自衛隊トップ 火箱芳文前陸上幕僚長が2年近く経った今、「史上最大の作戦」の真実を語り始めた。

第1回 戦況を決するは『初動』にあり

2011年3月11日 市ヶ谷 防衛省事務次官室

 2011年3月11日14時46分。

陸幕長 火箱芳文は市ヶ谷防衛省11階の事務次官室で、中江公人防衛事務次官と陸海空並びに統幕の各幕僚長による幹部会議に出席していた。

 

突然の衝撃。

 

「危ない!額が落下しますよ。」

 

中江事務次官の声に振り返ると、椅子のそばの壁にかけてあった絵画が大きく揺れていた。

 

中江次官が会議室のテレビのスイッチを入れると「震源地宮城県沖 マグニチュード8.4」、「津波警報発令」との緊急速報テロップが次々に映し出された。

 

この瞬間、火箱は胸中にざわつくような感覚を感じながら、第10師団長として名古屋に赴任していた当時の「能登半島地震」の体験を思い出していた。

 

「あの時とよく似ているな…」

 

会議は即座に中止。

会議室からエレベーターホールに出ると、エレベーターも停止していた。

 

「部隊を集めますから…」

 

火箱は全自衛隊制服組で唯一の上官である折木良一統合幕僚長に一言だけ告げると、4階の執務室まで一気に階段を駆け下りていった。

『戦(いくさ)の匂い』に敏感であれ

 階段を駆け下りる火箱の胸中をよぎったのは、かつての先輩である得田憲司元北部方面総監から若い頃教えられていた言葉だった。

 

「運用(作戦)に携わる者は、日頃から『戦(いくさ)の匂い』を感じることができるよう、感覚を研ぎすましていなければならない。」

 

この何とも言えない不安な感覚……。「これが先輩の言っていた『戦の匂い』なのだ」と体感した瞬間だった。

 

「何かとてつもないことが起っている…」

 

4階の執務室に飛び込むと、まず君塚栄治東北方面総監(現 陸上幕僚長)にホットラインをつないだ。

 

「君塚!仙台はどういう状況か!」

「陸幕長やられました。

後ろの建てたばかりの庁舎との継ぎ目から土煙が上がっており、現在、停電。テレビも映りません!」

 

この瞬間、火箱は、自分の直感が現実なのだと確信した。

 

「東北方面隊全員に非常呼集。

全力で災害派遣に出動し、海岸部の担当地域に向かえ。津波警報が発令されているので注意せよ。

爾後、全国の部隊を速やかに集中し、増援する。

県知事からの要請など待たなくてよい。ただちに出動せよ!」

 


 

オレも、これでクビだな…

「オレも、これでクビだな…」

 

受話器を置いて、火箱はボソッとつぶやいた。

一見、当然の指示に見える行為だが、この時点で、すでに火箱は『越権行為』と批判される可能性がある2つのグレーゾーンに踏み込んだと言える。

 

阪神淡路大震災の時に、県知事からの出動要請を待ったがために自衛隊の災害派遣が遅れたことを教訓に、大規模災害の際には都道府県知事からの要請を待たず部隊を派遣する、いわゆる「自主派遣」の判断基準が明確化された。

 

ただし、この規模の「自主派遣」をするためには、実際上、総理大臣もしくは防衛大臣の指示により行なわれると言う手続きが通常と考えられる。

 

もう一つは、陸上自衛隊の奇妙な組織編成の現実がある。海上自衛隊には「自衛艦隊司令官」、航空自衛隊には「航空総隊司令官」と言う、全軍に指揮権を有する役職があるが、陸上自衛隊にだけは、「陸上総隊司令官」のような全軍に指揮権を発動できる役職はないのだ。

 

陸上自衛隊は、全国5地域の方面隊を指揮する5人の方面総監が存在するのみで、方面隊以上の規模で運用を行なう場合の司令官は、統合幕僚長になる。

 

陸上自衛官最高位の『陸幕長』は、単に大臣に軍事的アドバイスを進言する、最高軍事顧問に過ぎない。

しかし、状況は明らかに全陸上自衛隊規模の派遣を必要とする災害としか考えられない。

(そして、この権限分掌は、東日本大震災を経験したにも関わらず、2年近く経った今でも変わっていない。)

『陸上総隊司令官』火箱芳文

 この瞬間から、火箱は現実には存在しない「陸上総隊司令官」として行動することになる。

 

「どうせクビなら、やらないで非難されるより、権限もないのにやり過ぎて非難された方がいいや…」

 

その時、火箱の頭にあったことは一つだけだった。

 

「生存者救出の可能性は発生から72時間で急激に低下する。」

 

いくら日頃から訓練をしているとは言え、師団規模の人員・装備を全国から動かすには、それなりの時間がかかる。

 

日没まで、あと数時間。

1時間、2時間の初動の遅れが1日、2日の遅れを招く。

それは、とりもなおさず、助けられる人命をみすみす失うことに他ならない。

 

「陸上総隊司令官」火箱芳文は、次に西部方面総監にホットラインをつなぐため受話器を取り上げた。

 

                   (次回につづく)

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