医療技術

飛び出すアイコンに襲われる! 54歳男性「アリス症候群」だった!イタリア

 当ハザードラボではこれまでにも、世界各国の珍しい病気や症例をご紹介してきたが、今回は病名からして奇妙な「不思議の国のアリス症候群」を発症した54歳の男性のケースだ。

 

 英国の作家ルイス・キャロルによる物語は、白ウサギを追いかけて迷い込んだ不思議の国で、永遠に終わることのないお茶会に参加したり、トランプの国で騒動に巻き込まれるお話だ。冒頭、アリスは小瓶の薬やケーキを口にして、体のが小さくなったり、巨大化するが、この病気もまた、自分の体や、目に見えるもののサイズに異常が生じるというもの。

 英国の脳神経科学誌『Neurocase(ニューロケース)』に1月2日に公開された報告によると、イタリア・ローマに住む54歳の男性は2017年、自宅の書斎でデスクトップパソコンを操作中、モニター画面からアイコンがゆっくり飛び出して、自分の方へ向かってフワフワと飛んでくるのを「見た」。

 

「なんだ、これは…!」自分が見ているものが信じられず、右手をマウスにかけたまま呆然としていた10分間、宙に浮遊するアイコンが波打つように動き出し、視界の右側に向かって消えていったという。大声で家族を呼んだが、「居眠りでもしていたんじゃないの?」と誰も信じてくれなかった。

 

 しかし、その後、急に頭がガンガンと痛み出し、猛烈な吐き気とともに、周囲が極端に眩しく見え始めたことから、救急車を呼んで、大学病院に駆けつけた。

ルイス・キャロルや芥川龍之介も!

 

 中世ルネサンス時代に起源を持つ由緒正しきローマ・ラ・サピエンツァ大学病院の脳神経科チームが診察した結果、男性は世にも奇妙な「不思議の国のアリス症候群(Alice in Wonderland syndrome=AIWS)」だと診断された。

 

 この病気は脳の障害や異常に伴って、「変視」や「錯視」と呼ばれる見え方の異常が起きる症状で、先述のように自分の体や物のサイズが変形して見えるほかにも、風船玉のような物体が視界に広がったり、スマートフォンの画面が歪んで見えるなど、さまざまなケースが報告されている。

 一般的には片頭痛やてんかん、精神疾患のほか、薬物中毒などが原因とされており、作者のルイス・キャロルも片頭痛持ちだったことが知られている。また芥川龍之介も遺稿となった『歯車』で、彼を自殺に追い詰める原因となった不気味な幻視体験をつづっている。

 

 このイタリア人男性も長年、持病の片頭痛に悩まされてきたが、脳のMRI(磁気共鳴画像法)検査の結果、左後頭部に2.5センチ程度の膠芽腫(こうがしゅ)を発見。脳腫瘍が見つかったのは、空間的な知覚や方向感覚をつかさどる部分だという。

 

 脳神経外科医のヴァレンティナ・マンシーニ氏(Valentina Mancini)によると、「不思議の国のアリス症候群」と診察された患者で脳腫瘍が見つかったのは今回が初めてで、腫瘍の位置によって、さまざまな神経症状を引き起こす可能性があるという。

 

 脳腫瘍は一般的に急速に成長することが多いため、アイコンがパソコンから飛び出して見えた数カ月前から形成された可能性が高く、放置すればさらに深刻化するおそれがある。患者はすぐにレーザーによる切除手術を受け、その後は化学療法と放射線療法を開始したが、1年後にまったく同じ場所で再発を確認。

 

 しかし2度目の手術以後は再発がなく、アイコン飛び出し事件から20カ月が過ぎた現在は、健康な生活を送っているという。

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