• 東日本大震災

陸自史上最大の作戦 東日本大震災

陸上自衛隊 現在の実員数 約14万人。
創設から58年の歴史の中で史上最大の作戦は、言うまでもなく「東日本大震災への災害派遣」だ。
のべ派遣人員1066万人、派遣期間291日間、犠牲になった隊員は5名。
福島第一原発上空で放水する陸上自衛隊のヘリコプターのテレビ映像に釘付けになった人も多いだろう。
メディアで刻一刻と状況が報じられる裏側で、陸上自衛隊に何が起き、どのように作戦を遂行していったのか?
当時の陸上自衛隊トップ 火箱芳文前陸上幕僚長が2年近く経った今、「史上最大の作戦」の真実を語り始めた。

第17回 プロメテウスの希望 ゼウスの怒り(12)

明日は必ずやりましょう

 自衛隊から放水作戦中止の報告が入り、東電本店2階に陣取った統合対策本部が沈鬱な空気に包まれている頃、霞目駐屯地に帰投した実行部隊は除染とともに、隊員の体に着けていた線料率計の数値を確認していた。

 

 ヘリ外側の空間線量率は247ミリシーベルトと高い数値だったが、タングステンシートや鉛入りのチョッキが功を奏したのか、隊員の体に着けられた線量計の数値は予想外に低かった。

 

 その報告を受けた火箱陸幕長は、統幕長室に駆け込んで行った。

 

「なぜ中止させたんですか?」

 

「線量が多かったら引き返してこい。その判断は現場に任せると言ったんだ」

 

「しかし時間も迫っています。もっと状況が悪化したら取り返しのつかないことになります。統幕長!明日は必ずやりましょう!」

 

「……分かった」

地上放水作戦

 16日に開かれた省対策本部会議の席上、「翌17日午前9時30分から、菅総理とオバマ大統領の電話会談が行なわれる」との情報が伝えられた。

 

 すでに米政府・米軍は東電・政府に福島第一原発事故を収束させる意思はないのではないかと疑念を持ち始め、日本にいる米国人の帰国を促すとともに、解決に向けて断固たる措置を講じるよう外交・軍事ルートを通じて強く要請していた。

 

 外交的な観点から見ても17日の電話による首脳会談までに放水作戦を成功させることが必須な状況は誰の目にも明らかだった。

 

 いくつもの会議が続く中、会議と会議の合間に折木統幕長が立ち話のように火箱ら陸海空の幕僚長に突然切り出した。

 

「今夜、消防車を集めて地上からの放水をやろうと思っている。各自衛隊とも消防車を出してくれ」

 

「えっ?陸自の駐屯地にそんな射程の長い消防車なんてありませんよ」

 

「海上自衛隊の基地にもないなあ…」

 

火箱は杉本海幕長と思わず顔を見合わせた。

 

「どうも自衛隊の各航空基地には、航空機火災に備えて性能の良い消防車があるようなんだ」

 

折木統幕長の要請を受けて、火箱は木更津、霞目など陸上自衛隊の航空部隊がある駐屯地に指示を出した。

自衛隊が警察を指揮監督してほしい

 この後、北澤防衛大臣と防衛省・自衛隊幹部が打合せしている席上、伊藤哲朗内閣危機管理監、中野寛成国家公安委員長から相次いで北澤大臣に電話が入る。

 

「17日早朝から警察が放水したい。ついては自衛隊が指揮監督をしてほしい」

 

「……と言っているが、どうする?」

 

北澤大臣の質問に火箱は答えた。

 

「自衛隊が指揮することは、法律上も責任の所在からいってもできませんが、例えば現場まで先導し、放射線量をモニターして、危険な場合サイレンで知らせるなどして警察を支援するなら可能です」

 

 北澤大臣が、そう伝え、先方もその方針で納得した。

集合場所は四倉パーキングエリア

 午後10時30分。

 

 宮島CRF司令官のもとにも廣中雅之統幕運用部長から連絡が入った。

 

「警察の放水車とか陸海空の消防車を集めて、地上からの放水をやりますから」

 

廣中からCRFへの要請は、主に以下の2つだった。

 

◯原発対応の拠点となっているJビレッジから福島第一原発まで警察の放水車を誘導してほしい

 

◯陸海空の消防隊を集めて地上からの放水作業に対応する

 

「分かった。その代わり集合場所を常磐自動車道 四倉パーキングエリアにしてくれ。あそこが福島第一原発から一番近くて、一番迷うことなく集合できる場所だから……」

 

 危険を伴う新たな作戦計画の提示に対して、実行部隊CRFの最高司令官である宮島から出された作戦実行の条件は、なんと「集合場所の指定」だけだった。

明日は必ず撒きます

 午後11時10分。

 

 宮島は、帰投したヘリ放水実行部隊の被ばく状況の調査などをすべて終え、折木統幕長に状況を報告した。折木は直接的に何を命令するでもないが、その口調からは「福島第一原発は相当危ない」、というニュアンスがひしひしと宮島にも伝わってきた。

 

「統幕長。明日はどんなに放射線量が高くても必ず撒きます」

 

 折木がなかなか言えないでいることを、宮島は自分から口にした。

 

 折木との電話から20分後、宮島は金丸第1ヘリ団長に電話で下命した。

 

「明日は必ず撒け」

 

 それが命令のすべてだった。

 

        (次回につづく)

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