• 東日本大震災

陸自史上最大の作戦 東日本大震災

陸上自衛隊 現在の実員数 約14万人。
創設から58年の歴史の中で史上最大の作戦は、言うまでもなく「東日本大震災への災害派遣」だ。
のべ派遣人員1066万人、派遣期間291日間、犠牲になった隊員は5名。
福島第一原発上空で放水する陸上自衛隊のヘリコプターのテレビ映像に釘付けになった人も多いだろう。
メディアで刻一刻と状況が報じられる裏側で、陸上自衛隊に何が起き、どのように作戦を遂行していったのか?
当時の陸上自衛隊トップ 火箱芳文前陸上幕僚長が2年近く経った今、「史上最大の作戦」の真実を語り始めた。

第21回 プロメテウスの希望 ゼウスの怒り(16)

屈折放水塔車とスーパーポンパー

 今にして振り返ってみれば、震災発生から6日後の2011年3月17日は、ある種の「転換点」だった。

 

 それまで「防戦一方」で敗退を続けていた「FUKUSHIMA」 ー 福島第一原発事故 ーの原子力災害対処という「目に見えぬ敵との戦争」で、初めて人類が一矢を報い、巨大な災厄に対して「反転攻勢」に打って出た「記念日」とでも言うべきか。

 

 陸上自衛隊による福島第一原発への「ヘリ放水」をきっかけに、誰もその全容を把握できないままに、さまざまな物事の歯車が大きく動き出していた。

 

 屈折放水塔車とスーパーポンパー(遠距離大量送水装備)。

 

 東京消防庁のハイパーレスキュー隊が所有する「屈折放水塔車」は2節のブームを装備し、最大地上高22メートルから放水できる、高層ビルなどの火災に使用する消防車。

 

 そしてスーパーポンパーは、大規模災害などで消防用水が火災現場に供給できない場合に、最大2キロ先の海や河川などから現場に送水するための「遠距離大量送水車」だ。

 

 阪神淡路大震災の経験も踏まえ、首都直下地震などの大都市災害に備えるため、東京消防庁は、この特殊な消火装備のセットを持っていた。  

 

消防が出動するのは筋が違う

 屈折放水塔車の最大放水性能は毎分3.8トン。スーパーポンパーで海から水を汲み上げ、セットで使えば、毎分3.8トンを延々と放水し続けられる。

 

 17日夜に、自衛隊の救難消防車を5台動員して放水した量が約35トン。ハイパーレスキューのセットで行えば、ものの10分もかからずに同じ量の水を燃料プールに満たすことができる。

 

 性能が格段に違う。

 

 しかし、この日まで東京消防庁はなかなか動かなかった。

 

 その理由は、端的に言えば「筋が違う」ということ。それは本来の「組織原理」に由来していた。

 

 自衛隊はトップの統合幕僚長から下は2等陸士まで、すべてが特別職の国家公務員。

 

 警察は、各地方自治体の「自治体警察」になってはいるものの、例えば県警本部長など、各自治体警察の幹部は警察庁のキャリア官僚が任命されている。

 

 ところが消防は、所管こそ総務省消防庁になっているが、実働部隊たる各自治体消防は上から下まで地方公務員。

 

 つまり、「福島県の、しかも東京電力という一民間事業者の事故に東京の消防を使うのは本来筋違い」ということだ。

 

 そもそも要請の内容も「冷却水の供給」であって、「消火活動」ですらない。

 

石原都知事への出動要請

 仮に「緊急事態」ということに鑑み、「筋違い」の出動をするにしても、それは国の行政機関である自衛隊や、国と自治体の折衷組織?である警察がやるべきことをやってから、という論理になる。

 

 消防士の名誉のために言えば、現場の消防士がいつも「対岸の火事」を決めこんでいるわけではない。

 

 9.11のテロの際にも、各国の消防士が救援に駆けつけ、日本からも多くの消防士が危険を顧みず救援活動を行っている。

 

 しかし、そうした活動はすべて「ボランティア」だ。

 

 そもそもの組織原理が「対岸の火事」を決め込まざるを得ない構造になっているからこそ、「消防士スピリット」とも言える、相互扶助・自己犠牲の精神が際立ってかん養されたとも言える。

 

 総務省消防庁の煮え切らない態度に、ついに17日夜、菅直人総理は石原慎太郎東京都知事に直接連絡を取り、頭を下げてハイパーレスキューの出動を要請した。

ハイパーレスキュー隊出動

  2人の政治信条や、それまでの政治家としての経歴を考えれば、接点もなく、ほとんど相容れない仲なのは自明とも言える。

 

 しかし果たせるかな、石原都知事は菅総理の要請を受諾して、東京消防庁に出動命令を発した。

 

 翌18日午前3時30分。

 

「内閣総理大臣から東京都知事に対し、活動の要請がありました。日本の国運がかかっています。」

 

18日午後には放水を開始すべく、東京・荒川河川敷から福島第一原発に向けて東京消防庁ハイパーレスキュー隊139人が出動した。

歯車がきしむ不協和音

 しかし一方で、多くの歯車が一気に回り始めたことにより、その「きしみ」とも思える不協和音も現場に少しずつ響き始めていた。

 

 すでに17日の時点で、警察の放水車が現場に到着するのすら、調整のかけ違いなどから予定より数時間も遅れていた。

 

 現場では電源復旧工事を最優先させたい東電の復旧班と機動隊の放水チーム、自衛隊の消防隊、と多くの実働部隊が入り乱れて作業にあたっている。18日からは、それに東京消防庁のハイパーレスキュー隊も加わることになる。

 

 指揮中枢も、菅総理率いる官邸、東電本店、防衛省自衛隊とが、「相互に情報と目標を共有し、統制が取れている」とは言いがたい状況だった。

 

 この東京消防庁ハイパーレスキューレスキュー隊の出動についても、事前の情報共有はされておらず、福島第一原発の吉田昌郎所長も、火箱陸幕長も、翌18日のニュースを見て初めて知ることとなる。

 

 現場も司令部も混迷を増す中で、17日夜、福島県庁の一室では、現地対策本部長の松下忠洋経産省副大臣と田浦正人CRF副司令官が、現地での対応策について話し合いを始めていた。

 

                    (次回につづく)

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