• 防災知識

真に学ぶべき教訓は実体験にある

 想定外の巨大地震。一通りの防災知識は身につけたつもりでも、体験なき者にはリアルにその状況を想像することすら難しい。

『本当の教訓』は、たいてい教科書には載っていない。我々が知っている知識は、その時どれだけ役に立つものなのか?

 

 この連載では、ベストセラー『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』、『ふたたび、ここから』を執筆したジャーナリスト池上正樹とフォトジャーナリスト加藤順子が、実際に被災地を取材する中で感じた、さまざまな「被災地のリアル」を伝える。

そこから「被災するという事」をリアルに感じ、その日のために大切な教訓を学びとってほしい。

 

第2回 直後にすべきは何か?情報収集のリアル

 今や日本人の4人に1人がスマートフォンを持っている時代。当たり前のように多くの人がリアルタイムの情報収集を行なっている。

東日本大震災の時にも、新聞・テレビなどの既存メディアやポータルからの情報だけでなく、SNSでの情報交換が大きな役割を果たしたことは記憶に新しい。

 もし、自分の住む地域が大震災に見舞われた時に、まずスマホで情報収集をしようと思っている人は多いはず。それが証拠に、携帯電話やスマホの充電バッテリー系は常に『防災グッズ』の人気商品だ。

 

 しかし…、である。

大地震が襲ってきた時に、冷静にスマホで『情報収集』してから行動を決めるのは正しい選択なのか?

 

「躍ぶ前に見よ!」か「躍んでから見よ!」か?

 

本当の緊急事態の際には、普段正しいと思っている、あなたの『常識』は通用しないかもしれない。

携帯電話の罠。本当は危ない、いざというときのリアルタイム情報収集

 3.11以降、被災地の方々から様々な話を聞いてきたが、震災から1年8ヵ月たって、被災者から初めて聞かされて、とても気になった話があった。

それは、携帯電話やスマートフォンの危険性だ。

 この話をしてくれたのは、石巻漁港で働く男性4人組。夕食に入った飲食店でたまたま隣に座り、雑談から「あの日のこと」を話してくれたのだ。

 そのうちのひとり、卸商のAさんは漁港に立つ建物内で、大きな揺れを感じた。建物にとどまるように主張した人もいたが、多くの人は、すぐに高台に向かって逃げ始めた。Aさんも、車で800メートルほど内陸の高台を目指した。しかし、途中から道路が渋滞していて、車列が動かないため、Aさんは車を乗り捨てて高台に走った。逃げながら、車の中にいる人たちに向かって、「津波がくるぞ!」と大声で叫んだ。

 Aさんが高台近くのスーパーマーケットの屋上にたどり着いた直後、漁港も、走り抜けてきた一帯も、津波に没した。

 Aさんは、逃げながら声を掛けた車のことを、こう思い出す。

「車の中にいた人たちは、携帯の画面を見て、下を向いていたんだ。みんな、周りの様子も、津波が来ていた様子も、見えていなかったんだよ」

 イザという時に、携帯端末を介して、災害の情報を得たり、家族の無事を確かめたり、学校や職場に連絡を入れるのは、いまどき、当たり前の行動だ。

 Aさんが見た、手元の画面を見て、下を向いていた人たちも、おそらく、「家族は?」「津波は?」などと、必死に情報を得ようとしたり、家族の無事を確かめたりしていたのだろう。

『情報取得』の罠 『情報弱者』の不安

2012年12月7日の夕方、三陸沖で1年半振りにマグニチュード7を超える大きな余震があったとき、私も、Aさんから聞いたこの話を、地でいくような体験をした。

 揺れのあった瞬間、私は仙台市内の建物の地下1階で、作業をしていた。体感では明らかに震度5クラスの揺れなのに、携帯電話の電波届かない場所だったために、震度も、街中で何が起きているかも確かめられなかった。私はあっという間に「情報弱者」状態に陥った。不安だった。

 しばらくして、最大震度が震度5弱であることと、津波警報が出たことを、外から部屋に入ってきた人が教えてくれた。知り得た情報はそれだけだった。

 自分がいる建物は安全な場所であるという安心感はあったが、震源地もマグニチュードも分からず、原発の様子も心配だった。さらに、帰りの新幹線についても調べたかった。

 作業の手を止め、許可を得て、私は電波のある地上まで上がり、スマートフォンでTwitterを見た。案の定、震源地や、津波の到達時刻、新幹線が止まっている事実などについての情報は、すぐに得られた。

 知りたかったことを確かめたり、いくつか無事を知らせるつぶやきをした後、またすぐに新しい情報が気になり始めた。

「被害の状況は?」
「どこかで津波は観測した?」
「新幹線の運転再開の見込みは?」
「原発の様子は?」

 思い浮かんだ単語をアプリの検索窓に入れて、最新の情報を探す。見る度にタイムラインの内容が微妙に変わっていくのに平行して、私自身の知りたいこともわずかに変化していった。

 次々に、リアルタイム情報を追った。時間経過を忘れ、気がついたら、地下の部屋を出てから10分ほどが経っていた。情報取得の罠に陥ってしまったのだった。

『情報取得』は『安全確保』後に

 沿岸部でこんな事をしていたら、逃げる時間を無駄に浪費していたことになる。Aさんが逃げながら見た、車の中で携帯電話の画面に夢中になっていた人々は、実はこういう状況だったのではないかと、その時ハッと気がついた。

 東日本大震災は、災害時のソーシャルメディア活用の可能性を広げた機会として記憶されていくと思うが、リアルタイムの情報取得や安否確認が、その人に迫っている本当の脅威のアンテナを鈍らせてしまう可能性があることは、あまり語られていない。

 携帯端末で災害情報の取得や安否確認は、まず身の安全を図ってから行うべきだ。このことは、当たり前のこととして、広く認知されていかなければならないことなのではないかと思う。

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