• 防災知識

真に学ぶべき教訓は実体験にある

 想定外の巨大地震。一通りの防災知識は身につけたつもりでも、体験なき者にはリアルにその状況を想像することすら難しい。

『本当の教訓』は、たいてい教科書には載っていない。我々が知っている知識は、その時どれだけ役に立つものなのか?

 

 この連載では、ベストセラー『あのとき、大川小学校で何が起きたのか』、『ふたたび、ここから』を執筆したジャーナリスト池上正樹とフォトジャーナリスト加藤順子が、実際に被災地を取材する中で感じた、さまざまな「被災地のリアル」を伝える。

そこから「被災するという事」をリアルに感じ、その日のために大切な教訓を学びとってほしい。

 

第3回 避難所運営のリアル

 避難所の管理責任者は誰か?

避難所が学校なら校長?それとも行政の誰か?

 

 形式的には『自治体職員』と言うことになるのだろうが、大規模災害の場合、『管理責任者が不在』と言うケースは珍しくない、というか当たり前の状態だ。

となれば、避難所での生活を守ることは、『避難してきた近隣住民』自体に委ねられる。

被災者による自治・自主運営が『避難所運営』の原則だ。

 

 この事をきちんと認識していないと、無用の混乱を招くこともある。

今回はあまりメディアに取上げられない避難所の困った運営を被災地の実体験に学ぼう。

 

 避難所生活を安心して送るすべは、必要不可欠な『防災知識』だ。

避難所でのボランティア

 震災の後、避難所に入れば、すべて安心というわけではない。ある被災地に住むA子さんが、津波で全壊した自宅近くの学校の避難所で体験した話を紹介しよう。

 

彼女は元々、この学校の父兄で、PTA役員だった関係から、避難所でボランティアをすることになった。そこは、比較的規模の大きな避難所ということもあり、外からたくさんのボランティアがやって来た。

 

 A子さんの役割は、教育支援のため、子どもたちには図書室に通ってもらって、大学生のボランティアに勉強を教えてもらうこと。そんな毎日が、震災後の3月末から6月頃まで続いた。

『ボス』の誕生

 その間、避難所内では、異変が起きていた。他県からやってきた支援団体の年配女性が、いつのまにか“ボス”に君臨していたのだ。

 

「当時、物資が入ると、住民さんや在宅の人たちをばーっと並ばせて、ずっと待たせるんです。

ここに段ボールを置いたら、よーいどん!という形で物資をあげていた。

 

もう、私の友だちが泣いてたんですね。あんな人間の醜い姿は見たくない。奪い合いが、すごいんだって…。

 

その様子を外からやって来たボスが壇上からニヤニヤ腕組みしながら見ていたんです。それをボラ(ボランティア)の人たちは怒っていたんですね」

 

 A子さんも、そんな避難所の状況に「なんだか仕組みがおかしいのではないか」と疑問を抱き始め、ボスに聞いた。

 

「(よーいどんで物資を配ったら)足の弱い人はどうするんですか?」

 

「幸せになりたい奴が走って取ればいいんだ」

 

被災者もボランティアもなぜか「何かをやりたい」とか「何かが欲しい」とき、すべて彼女に相談し、その意見に従っていたのだ。

あんた、なにさまのつもりなの!

 A子さんも、ある教育支援を要請しに行くと、「あんた、なにさまのつもりなの!」とボスに怒鳴られ、きょとんとなった。

 

「自分には10年以上のボランティアのキャリアがあるから、良い物、悪い物がわかる。

あんたは、たまたま来たPTAのお母ちゃんだ。

だから(手をひらひらさせて)却下、却下。帰れ!」

 

 また、A子さんが自分でニーズを聞いて調達した物資の箱をまだ開けないようお願いすると、ボスは、その物資を放り投げ、髪を逆立てて、

 

「あんたは目の前をウロウロするハエと同じ」

 

と怒った

 

 皆、何をやるにも、彼女を怒らせないように気を使っていた。

放送室のマイクを奪ったボスは、他のボランティアが持ってきた物資も、必ず自分で放送をかける。

そのため、彼女が物資を調達してくれていると思い込んだ被災者から、A子さんは、こう言われた。

 

「彼女のおかげで生活できる。お願いだから、もめ事を起こさないで!」

『ボス』の功罪

 1~2週間おきに入ってくる何も知らない若いボランティアたちは、物資の衣類を何枚も取りに来る被災者に「1人2枚まで」の看板を作ったり、服をきれいに仕分けしたりした。

すると、ボスから首根っこをつかまれ、

 

「余計なことをするな!あんたは物資から外れてもらう」

 

と大勢の前で威圧された。こうして拒絶できない若者たちは、物資担当から外され、陰で泣いていたという。

 

「当初、彼女は避難所を組織展開していくうえで、素晴らしいことをやったと思うんですよ。

しかし、誰にもノウハウを教えなかった。

本来なら早いうちに、被災者の中から自治会長のような人を選んで、自分たちで運営しなきゃいけないってことを教えなきゃいけなかったんです。」

運営をボランティア任せにするな!

 他では、きちんと被災者自身で自主的に運営できている避難所が多い。

しかし、この避難所では、運営をボランティア任せにしてしまった。

 

「ボスは“いいんだよ。こんな時、傷ついているときは、頼っていいんだよ”と甘やかした。

だから、炊き出しのとき、サランラップまで掛けてもらうのを待ち続けるような住民さんだらけでした。

これは自立自活以前の問題じゃないかと」

 

 避難所に入ったら、早いうちに自分たちで力を合わせて自治組織をつくることが必要だ。

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