• 東日本大震災

陸自史上最大の作戦 東日本大震災

陸上自衛隊 現在の実員数 約14万人。
創設から58年の歴史の中で史上最大の作戦は、言うまでもなく「東日本大震災への災害派遣」だ。
のべ派遣人員1066万人、派遣期間291日間、犠牲になった隊員は5名。
福島第一原発上空で放水する陸上自衛隊のヘリコプターのテレビ映像に釘付けになった人も多いだろう。
メディアで刻一刻と状況が報じられる裏側で、陸上自衛隊に何が起き、どのように作戦を遂行していったのか?
当時の陸上自衛隊トップ 火箱芳文前陸上幕僚長が2年近く経った今、「史上最大の作戦」の真実を語り始めた。

第7回 プロメテウスの希望 ゼウスの怒り(2)

冷却用の真水を運んでほしい

 次に福島第一原発関連の要請がきたのは、翌12日午前4時ごろの事だった。

 

「陸幕長。オフサイトセンターから東北方面隊に福島第一原発1号機に冷却用の真水を運んでほしいとの要請があり、午前4時22分に郡山駐屯地から水タンク車を出しました。」

 

「水…?おまえ水って言ったって、原子炉冷やす水なんだから大量に必要なんじゃないか?」

 

「いや、それが自衛隊の5トン水タンク車で運べる程度で大丈夫みたいで…」

 

「そうか、それならしっかり要請に応えてやれよ。」

 

なんとも、のんびりした話だ。

 

 後日公開された民間の事故調査委員会『福島原発事故独立検証委員会』の調査・検証報告書にある証言によれば、同じころ、福島第一原発は怒号飛び交う、極めて逼迫した状態にあった。

何でもいいから液体を持ってきてくれ!

 11日午後、『ステーション・ブラックアウト』直後には吉田昌郎所長(当時)が、東電本店からの指示に対し、「何でもいいから液体を持ってきてく れ」と要求している。

 

さらに、午後7時過ぎには、「『この原発は終わった。東電は終わりだ』との思いがよぎった」と証言者は当時の心情を語っている。

 

 いったいこの『温度差』は何なのか?

 

 全交流電源喪失直後の「何でもいいから液体を持ってきてくれ」と言う現場最高責任者の悲痛な叫び。

 

それが防衛省・自衛隊に届いたのは半日以上経過した翌12日の午前4時。

 

 11日夜の時点で、政府は事態を正確に掌握できていなかったのか?

 

それとも自衛隊が出動することに対し何らかの理由でためらいがあり、どこかの段階で情報が意図的に遮断されたのか?

 

 その本当の理由は分からないが、『ステーション・ブラックアウト』から、あの『衝撃的な事故』が起きるその瞬間まで、防衛省・自衛隊が福島第一原発事故に関して『かやの外』にあったことは間違いない。

最初の水素爆発

 12日午後3時36分、福島第一原発の1号機建屋で最初の水素爆発が発生した。

 

 しかし、この時も官邸から統合幕僚監部に連絡がきたのは、発生から2時間近く経過した午後5時24分だった。

 

「15時36分、福島第一原発で爆発、白煙が上がった。1号機原子炉建屋とタービン建屋の間のもよう。負傷者が出たもよう。原因調査中。モニタリングカーで計測した線量が500ミリシーベルトを超えたことから、16時17分、原子力災害対策措置法による15条事象と判断。」

 

火箱に至っては、今でも多くの人の記憶に残っているであろう、

 

「何らかの爆発的事象があったと報告された……」

 

と水素爆発を国民に説明した枝野官房長官の記者会見(12日午後5時47分)をテレビで見て初めて状況を知った。

 

 翌13日午前8時。折木統幕長から指示が出された。

 

福島第一原発、福島第二原発への冷却水・燃料輸送は中央特殊武器防護隊170名が担当する。

また前日に20キロ圏内に避難指示が出されていることから、避難指示区域の被災者支援は東北方面輸送隊110名が担当する事になった。

 

 テレビではマスコミが大騒ぎし、現地に派遣したLO(Liaison Ofiicerの略=連絡将校)からも、「現場は緊迫している」との情報が入ってくるものの、政府・官邸からは特段の要請も情報もない。

 

11日の発災以降、政府からの要請はあまりに『軽微』なものであることから、防衛省・自衛隊は『福島第一原発事故については、東電、原子力安全・保安院で対処できている』とばかり思っていた。

運命の女神の皮肉な微笑

 14日午前9時。

 

 北澤防衛大臣は、午前11時からとり行なわれる統合任務部隊指揮官の任命式に出席するため、折木統幕長とともに、陸上自衛隊のヘリで市ヶ谷防衛省から仙台の東北方面総監部に向かった。

 

 東日本大震災の災害派遣において、陸海空の自衛隊を統合的に運用するために『統合任務部隊』を編成し、その指揮官として君塚栄治東北方面総監(当時)を任命するセレモニーである。

 

 もし、福島第一原発が危機的状況に陥っていることを、この時点で防衛省・自衛隊が知っていれば、防衛省トップ、自衛隊トップと統合任務部隊指揮官をこのタイミングで任命式に参加させることなど、よもや思いもしなかっただろう。

 

運命の女神が、その口元にほんのわずか『皮肉な微笑』を浮かべた瞬間だった……。

 

 任命式の開始予定時刻は午前11時。

任命式が始まって、わずか1分後の午前11時1分。

 

福島第一原発3号機から、すべての局面を劇変させる白煙が立ちのぼった。

 

            (次回につづく)

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