• 東日本大震災

陸自史上最大の作戦 東日本大震災

陸上自衛隊 現在の実員数 約14万人。
創設から58年の歴史の中で史上最大の作戦は、言うまでもなく「東日本大震災への災害派遣」だ。
のべ派遣人員1066万人、派遣期間291日間、犠牲になった隊員は5名。
福島第一原発上空で放水する陸上自衛隊のヘリコプターのテレビ映像に釘付けになった人も多いだろう。
メディアで刻一刻と状況が報じられる裏側で、陸上自衛隊に何が起き、どのように作戦を遂行していったのか?
当時の陸上自衛隊トップ 火箱芳文前陸上幕僚長が2年近く経った今、「史上最大の作戦」の真実を語り始めた。

第9回 プロメテウスの希望 ゼウスの怒り(4)

福島第一原発3号機 水素爆発

 3月14日午前11時01分。

岩熊1佐が隊員に作業を指示するために指揮官車のドアを開けようとした、まさにその瞬間だった。

 

 腹に響くような爆発音とともに、わき上がった煙が視界をさえぎる。

とほぼ同時に、強烈な爆風が指揮官車を襲った。

 

キャンパス地の屋根を突き破って、爆発した3号機建屋の無数のコンクリート塊が降り注いいでくる。

フロントガラスも瞬く間に粉々に砕け散った。

 

岩熊は助手席で体を丸めているしか、なすすべがなかった。

 

「来たな…」

 

 不思議とさしたる動揺はなかったが、これが原子炉本体の爆発だとしたら相当な高放射線量を浴びているかもしれない。そのことだけが不安だった。

 爆発が収まり、となりの席で指揮官車を運転していた隊員に呼びかけた。

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫です。」

 

運転席側はとても脱出できる状態ではなかった。

岩熊は足で助手席のドアを蹴破って指揮官車から外に這い出ると、水タンク車に近づいた。

 

「けがはないか?」

 

「痛いですが、大丈夫です。」

 

タイベックス(防護服)の一部が破け、足を引きずっている者もいるが、全員歩けるようだ。

 

岩熊は誰も致命傷を負っていないことに少しだけ安堵した。

 

被曝線量は20ミリシーベルト超

 設定許容値を超えた累積線量計が、かまびすしく警告音を発し続けていた。

 

20ミリシーベルトを少し超えている。線量率計も、1ミリシーベルト/時を超えていた。

 

想定していた線量の2倍だが、直ちに危険な状態に陥る数値ではない。

 

「すみやかに退避すればまだ大丈夫。」岩熊は思った。

 

 車両の周りはコンクリートの塊が散乱し、とても車を動かせるような状況ではなかった。

 

「すぐに離脱するぞ!」

 

岩熊は隊員たちに徒歩で退避することを告げ、けがをしている隊員を助けながら、行きに来た道を戻り始めた。

 

今、爆発したばかりの3号機建屋と2号機の間を通らなければならないことは不安もあるが、一刻でも早く高放射線量下の状況から逃れたい一心だった。

 

途中で東電の社員らと合流。作業員の中にも負傷者がいる。

 

その時、道に放置されたトラックが視野に入った。運転席を覗いてみると、幸運にもキーがささったままだ。

 

「エンジンがかかる…。」

 

隊員の1人が運転し、負傷した作業員たちも載せたトラックが動き出した。

岩熊たちは、作業員たちを免震重要棟で降ろすと、さらにそのトラックで正門へと走り続けた。

予測不能の事態

 市ヶ谷防衛省4階、陸幕長執務室。

 

つけっぱなしにしているテレビから、突然、福島第一原発3号機で水素爆発らしき爆発が起きた事を報じる、緊迫した声が飛び込んできた。

 

「おい!隊員が給水作業に行っているんじゃなかったか?」

 

火箱陸幕長の胸を黒雲のような不安が去来した。

陸上幕僚監部は、にわかに騒然とした空気に包まれた。

 

午前11時58分。

テレビが、作業中の自衛隊員が爆発に巻き込まれていると告げた。

 

「大丈夫だって言ってたじゃないか…」

 

給水作業を引受けるにあたっても、経産省からは水素爆発などの危険性はない、と説明されていた。

 12時過ぎて、ようやく現地からの報告が火箱に上がってきた。

 

「隊員6名が爆発に巻き込まれ、4名が負傷した。精密検査のために千葉市稲毛の放射線医学総合研究所に搬送中」

と言う内容だった。

 

狐につままれたような気分だった。

あまりの事に、怒りの感情すら通り越していた。

 

ただ、この瞬間に火箱が理解できたことは、福島第一原発が危機的な状況にあるということと、東電、原子力安全・保安院だけでは事態の掌握が不能になっていると言う事実だった。

 

事故の一報は仙台の東北方面総監部で任命式に出席していた北澤防衛大臣、折木統合幕僚長にも伝えられる。

午後に予定されていたスケジュールはキャンセル、二人は東京に舞い戻った。

 

自衛隊を取り巻く状況は、この瞬間から雪崩をうったように劇変していく。

 

              (次回につづく)

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