• 歴史

東日本大震災が起きてから、日本の歴史が震災という新たな角度で注目されるようになった。

 

M8.0クラスの大震災
富士山の噴火
大飢饉を招いた気候の寒冷化
など

 

かつては「大げさ」の一言で片付けられがちだった古文書の内容が、現実を目の当たりにして笑い事では済まされなくなったからだ。


歴史の記録には、我々の祖先が体験してきた貴重な記憶が詰まっている。

当連載では、それをやさしく紐解くことで、災害の今昔を学んでいきたい。

第二巻 千年に一度の大震災 平安時代の東北を襲った貞観地震

 東日本大震災から2年が経過した。

 

 震災後、様々なメディアで「千年に一度の大地震」と呼ばれてきたので皆さんご存知かもしれないが、およそ1100年前の平安時代869年(貞観11年)にも、東北地方を襲った大地震と大津波がある。


 貞観地震だ。

 

 

 

荒れ狂う海が渦巻き巨大な波が城下を襲う

 千年に一度の由来ともなった貞観地震は、はたしてどんな災害だったのか。『日本三代実録』という古代書に当時の様子が記されているので、一部を抜粋してみよう。

 

『人々は叫び、倒れた人は起き上がることができない。家が崩れ圧死したもの、地滑りや地割れで生き埋めになったもの。その被害の多さは数えることができないほどだ』 

 日本三代実録に記されていた舞台は、宮城県の多賀城(現在の多賀城市)。その津波の表記も、今回の東日本大震災と驚くほど似通っている。

 

『荒れ狂う海は渦巻きながら膨張し、巨大な波はまたたくまに城下を襲う。野も道もすべて水の中。船で逃げることも、山に登ることもできない。溺死したものは一千人』 

“荒れ狂う海”だの“巨大な波”だの、もし、皆さんも今回の大震災を経験していなければ、大げさな表現だと思われただろう。


 この時の津波は、海水によって運ばれた泥の堆積物調査から、少なくとも3~4キロは内陸に達したといわれている。東日本大震災では、仙台市で海岸から約5キロほど津波が浸水しており、2つの災害がほぼ同規模であるのは間違いない。
 溺死1000人というのは、おそらく実数ではない。むしろ東北全体では何倍にも膨れあがったと考える方が自然。


 考古学の調査によれば、この時期を境に人々の住む場所は大きく変化しており、たとえば福島県では現代人が住む内陸エリアへと移動した痕跡も残されている。
 これは現代版の地図からも一目瞭然だが、福島県から岩手県まで主要都市を結ぶ東北新幹線や東北自動車道は、大半が内陸部を通っている。


 東北最大都市の仙台が海岸線から10キロ圏内に立地しているのは、古くから海上交易の要地として発展したから。その例外を除き、東北の人々は長い歴史の中で自然と内陸へ移動してきたのである。
 海岸付近の住民は移住すべきかどうか。東日本大震災をキッカケに大きな転換点を迫られている現代の事情と重なってくる。

 

 

 

東北の地震が京都の祇園祭を産んだ!?

 大災害に見舞われた平安人はどうやって立ち直ったのか。


 残念ながら史料は多くを語らず、地震発生から4か月後に都から使者が派遣され、税の免除が行われた程度だ(もちろん、他の復興策もあったかもしれないが史料は残っていない)。


 いつの時代も国にばかりは頼っていられない。特に当時ならば、仏教などの宗教にすがり、精神の糧とした人も多いだろう。


 それを示す一例が、東北から1千キロ以上も離れた京都に見られる。八坂神社の『祇園祭』である。
 祇園祭の発祥は諸説あるが、八坂神社の伝えでは、『貞観11年に全国で大流行した疫病を抑えるためにはじめた』とされている。地震があったのも貞観11年。はたして偶然といえるだろうか。


 当時、街が東西南北に区画整理されるほど発展した都市は、京都、多賀城、大宰府(福岡県)の3つしかなかった。そのため、東日本に大ダメージをあたえた貞観地震・津波の結果、都に多数の流民が入り込み、疫病が蔓延したということは大いにありうる。実際、震災後にこの議論は活発になりつつあるのだ。


 いずれにしても忘れてはならないのが、貞観地震が当時の日本では天災の一部にすぎなかったことだろう。これに前後して現在の新潟や兵庫、関東でも大地震が起きており、864年から866年にかけては富士山の噴火まで起きている。

 

 

 

 世の中には、決して繰り返してほしくない歴史がある。
 が、過去から目をそらして後悔するよりも、先人たちの言葉に耳を傾け、真摯に受け止めることも大切であろう。
 現代人がとるべき震災対策は、案外歴史の中にあるのかもしれない。

文・恵美嘉樹(えみよしき)
作家。歴史研究の最前線の成果を社会に還元する二人組。

著書に『全国「一の宮」徹底ガイド』(PHP文庫)、『最新日本古代史の謎』(学研)など。

 

【参考文献】
『東北』(著・岡本公樹/講談社)
『災害復興の日本史』(著・安田政彦/吉川弘文館)

バックナンバー

ページのTOPへ